急速に経済成長しその動向が報じられない日が無いほど、中国は世界中から注目を集めています。
近代化が推し進められる沿岸部は高層ビルが建ち並び、世界屈指の近代都市と言えるほど開発されました。
しかし中国は非常に広く雄大な自然を抱える国でもあります。
今回紹介する「九寨溝の渓谷の景観と歴史地域」は国内に多くの世界遺産を持つ中国の中でも、屈指の景観が広がる美しい渓谷です。
九寨溝の渓谷の景観と歴史地域とは?
九寨溝(チウチャイゴウ)は、四川省北部のアバ・チベット族チャン族自治州の九寨溝県に在ります。
岷山(びんさん)山脈の秘境の渓谷で、1992年に世界自然遺産に登録されました。
湧き出る豊富な水が滝となり棚田状に広がる大小の湖を次々と流れ落ちる、幻想的な景観を見ることができます。
独特の景観はカルスト台地からの湧水に溶け出した石灰分が、長い年月をかけて堆積し流れを遮ることで造り出されました。
湖に湛えられる水は非常に透明度が高く何千年も湖底に沈む倒木などを見ることもできます。
離れて見る湖面は刻々とその表情を変化させ、日中には鮮やかな青やエメラルドグリーン、夕方にはオレンジ色に輝きます。
眺めていると時間が経つのを忘れてしまうほど、その景観は美しく幻想的だと言えるでしょう。
ジャイアントパンダやレッサーパンダ、孫悟空のモデルとなった金糸猴(ゴールデンモンキー)などの稀少動物の生息地でもあり、1997年にユネスコの「人間と生物圏計画」(MAB)の生物圏保護区にも指定されました。
また、自治州の名前から判るように古くからこの一帯はチベット族など少数民族の居住地であり、付近には彼らの信仰するチベット仏教やボン教の寺院などの宗教施設も点在しています。
九寨溝の渓谷の景観と歴史地域の成り立ちは?
チベット族の村(山寨)が9つある谷であることから九寨溝と名付けられ、古くからチベット族の人々が、農業や放牧をしてつつましやかに暮らしていました。
あまりに美しい景観から彼らの間では、こんな伝説がた語り継がれています。
「昔々、この深い山の奥にある「鏡岩」と呼ばれる絶壁の上に、美しい妖精がひとりで住んでいた。あるとき妖怪がこの妖精に目を付け1,000年の間つきまとい続けた。
哀れに思った山の神が、太陽と雲で造った鏡を使って妖怪を退治しようとするが、戦っている途中で鏡は山の中に落ちて砕けてしまった。108つに砕け散った破片は山を彩り、九寨溝の美しい湖になった。」
現在も九寨溝内には数多くのチベット族の集落があり、彼らは実際に生活をしています。
九寨溝内には寺院、塔、マニ車などのチベット仏教の宗教施設が点在しますが、実はこの地域はチベット仏教よりもボン教が盛んで、九寨溝内の扎如寺はボン教寺院です。
その他の宗教施設も全てボン教のもので、タルチョーと呼ばれる祈祷旗も各所で見られるがこちらもボン教のタルチョーです。
コルラの方向やチベット仏教ではマニ車と呼ばれるマシモ車を回す方向がチベット仏教とは反対の反時計回りなのが特徴です。
九寨溝の渓谷の景観と歴史地域の現状は?
2008年に起きた大規模なチベット独立デモでは、チベット自治区や中国各地のチベット自治州への外国人の立ち入りが禁止、制限されました。
事態の鎮静化に伴いこの措置は解除されています。
同年に発生した四川大地震も震源地から離れていたことから九寨溝は被災を免れました。
しかし交通インフラが被害を受けたことから、2010年までの約2年間はバスツアーが制限されました。
2017年に発生した九寨溝地震では、湖成段丘の堤が決壊したことで水が流出して枯れてしまったほか、周囲の山が崩壊し大量の土石流が流入しました。
ユネスコは犠牲者への哀悼の意を表すると共に、損壊状態の確認について現地状況が落ち着くのを待ち、中国当局からの経過報告を待つことを発表しましたが、中国の専門家から「人工的な復元はしないほうがいい」と指摘する意見も出されています。
九寨溝の渓谷の景観と歴史地域のお薦めスポットは?
今回の震災で美しい九寨溝の渓谷の景観が損なわれていないことを祈りながらお薦めスポットを紹介します。
チベット族の集落「樹正寨」
九寨溝内には数多くのチベット族の集落が点在します。
その集落のひとつ「樹正寨」の一角を土産品店街とした「九寨溝民俗文化村」では、この付近のチベット族独特の木造建築民家も公開されています。
点在する観光スポット
九寨溝内には多くの観光スポットが点在するので、バスを利用して移動するのが便利です。「長海」「五彩池」「季節海」「原始森林」「熊猫海」「五花海」「孔雀河道」「珍珠海」「珍珠灘瀑布」「鏡海」「犀牛海」「樹正瀑布」「臥龍海」「火花海」「芦葦海」「盆景灘」などの有名スポット到着後は徒歩で観光します。
いくつかのスポットを徒歩で当たり歩くのも楽しいものです。
まとめ
2017年の夏、衝撃的ニュースが報じられました。
8月8日に九寨溝で地震が発生し、外国人旅行者含む多くの観光客が被災したというものでした。
地震発生当日に約3万3,800人の観光客が訪れていたとみられ、8月11日時点で死傷者の数は500人を超えたとの報道もあり、不安な気持ちを抱える方も多いかと思います。
現在のところ被災した九塞溝の復旧の目途は全く立っておらず、観光地としての再建には数年の歳月が必要となるかも知れません。
復興のために我々ができることは、美しかった九塞溝を忘れずに語り継いでいくことではないでしょうかと思い、今回敢えて九塞溝紹介のペンを取りました。